2020年3月6日の日経朝刊に、コロナウィルス対策としての在宅勤務の急速な導入に伴い、テレビ会議の回線混雑や接続難、パソコンに取り付ける小型カメラの品薄が報じられました。
もともと少子高齢化対策やそれに絡む働き方改革、地方創生、はたまた東京オリンピックの混雑緩和策として、どちらかと言えば「できる企業から」進められてきたテレワークが、コロナウィルスによる新型肺炎の感染対策としてにわかに拡大しています。
「うちの仕事はテレワークには向かない」としてきた企業、導入したいけれど資金もノウハウも不足する中小企業なども、社員の感染対策、事業継続のリスク管理からも取り組まざるを得ない状況です。
本稿ではテレワーク導入する際にはどのような点に気を付ければいいのかを中心に、スムーズな導入で期待するメリットが十分得られるように、事前に知っておきたいテレワークの課題を確認してみました。
目次
1. テレワークに期待されるメリット
1-1. テレワークとは
1-2. テレワークの導入状況と利用状況
1-3. テレワークの導入で期待されるメリット
2. テレワークの課題
2-1. 企業が感じているテレワークの課題
2-2. 従業員が感じている課題
2-3. 主要な課題への対策例
3. まとめ
1. テレワークに期待されるメリット
東京都内の複数の大手企業が、数千人単位の本社社員を在宅勤務に切り替えるなど、新型肺炎の感染対策が本格化してきました。もともとIT関連企業など「テレワークに適した」と思われる企業を中心に進められて来ていましたが、感染対策以外に、企業や従業員にそもそもどのようなメリットがあるのでしょうか。
1-1. テレワークとは
政府におけるテレワーク推進体制の主務官庁である総務省が、2019年7月開催の「テレワークデイズ」に向けて作成した資料「テレワークの最新動向と総務省の政策展開」(令和元年5月31日総務省 大臣官房総括審議官(情報通信担当)安藤氏)(以下「総務省資料」或いは「同資料」)では「テレワーク:「tele=離れたところで」と「work=働く」を合わせた言葉 」と定義されるICTを利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方の事とされ、①在宅勤務、②モバイル勤務、③サテライトオフィス勤務、がその代表的なスタイルとして挙げられています。
同時に、同資料の中で政策的なメリットとして「地方創生」「一億総活躍社会」「働き方改革」が掲げられ、テレワークは生産性の向上、労働時間の短縮といった働き方改革をはじめ「経営課題、社会課題を解決する」とされています。
1-2. テレワークの導入状況と利用状況
経営課題、社会課題の解決に資するとされるテレワーク。やはり総務省が行っている「平成30年通信利用動向調査報告書(企業編)」(以下「総務省調査」もしくは「同調査」)では、実際にテレワークを導入している企業は、前年の13.8%からは大きく伸びたものの、調査対象の19.0%にとどまっています。また同じ資料の中で、既にテレワークを導入している企業について、実際の利用対象者が5%未満という企業がほぼ半数の47%を占め、テレワークの導入、そして利用促進にも課題が残されていることがうかがわれます。
出典:総務省調査
1-3. テレワークの導入で期待されるメリット
政府の旗振りにもかかわらず、まだまだ導入や利用の普及が限られているテレワーク、導入する企業や従業員がメリットを感じていないのでしょうか。
前述の総務省調査では、導入済みの企業に対しての導入目的の質問もなされており、そこから企業がテレワークを導入する目的として
①定型的業務の効率性(生産性)の向上
②勤務者の移動時間の短縮
③通勤困難者への対応
④勤務者にゆとりと健康的な生活の実現
⑤人材の雇用確保・流出の防止
など、企業、従業員にメリットがあるものばかりが掲げられています。
出典:総務省調査
導入の効果についても同調査の中で、導入企業の80%近くの企業が「非常に効果があった」或いは「ある程度効果があった」としており、企業や従業員がメリットを感じていないわけではなさそうです。
出典:総務省調査
2. テレワーク導入の課題
導入した企業が効果を感じているにもかかわらず、導入企業の割合が伸び悩む背景には、導入に向けての課題の存在が挙げられます。
ここでは、どの様な課題が存在しているのかを確認し、どの様な対策が考えられるのかを見ていきましょう。
2-1. 企業が感じているテレワークの課題
今回引用させていただいている総務省調査では「テレワークを導入しない理由」(≒導入への課題)も調査項目に含まれていて、そこでは
①テレワークに適した仕事がない
②業務の進行が難しい
③情報漏洩が心配
④導入するメリットがよくわからない
⑤社内コミュニケーションに支障
などが挙げられています。
これらの課題に対して、冒頭で取り上げている総務省資料では平成31年度の施策として
①テレワーク普及推進施策
・「テレワーク・デイズ2019」(の開催)
・テレワーク専門家の派遣
・セミナーの開催・展示会への出展
・先進企業・団体の事例収集・表彰
②テレワーク環境整備(サテライトオフィス整備等)
等を掲げていました。
出典:総務省資料
これらの施策の浸透によって企業が導入に踏み切れなかったり理由・課題が解消されていくとともに、今般の新型肺炎の急拡大のような社会問題とそのリスク対策としての機能から、企業サイドでのテレワーク導入の機運は高まっています。
2-2. 従業員が感じている課題
一方、従業員側でも、テレワークの導入を期待したながらも、導入や利用についての課題を感じています。主なものには
①会社のルールの未整備
②社会的な環境整備
③上司の理解
④セキュリティ上の問題
⑤孤立感
等が挙げられています。
出典:ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究(2018年3月、総務省情報流通行政局 情報通信政策課 情報通信経済室)
これからテレワークを導入する企業、或いは導入したにもかかわらず対象職種でも利用が進まない企業は、これらの従業員サイドの課題についても対応策を講じることによって、円滑なテレワークの導入や利用の促進が望めると考えられます。
2-3. 主要な課題への対策事例
テレワークの導入に際しては、期待されるメリットもある反面、企業にも従業員にも様々な課題があることが確認できましたが、総務省が解説しているサイト「テレワーク情報サイト」の掲載企業中心に、主要な課題への対策例を見てみましょう。導入しようとしている企業、あるいは利用が進んでいない企業の環境や状況は様々だと思いますが、是非参考にしてください。
【導入課題①および②】
(①テレワークに適した仕事がない/②業務の進行が難しい)
⇒対策事例:株式会社ありがとうファーム
同社では「通常テレワークではPCでのデータ入力・プログラミング・HP更新が主であった。 弊社はそこにハンドメイドという業種を入れ、そのことによって今までテレワー クに無関係だった人も仕事をしていくことが可能となった。 」とのことです。
はじめから「この業種はテレワークには向かない」という固定概念をもたずに、自社の様々な業務がどうすればテレワークの導入が可能かという視点での検討の重要性を示している一例だと言えます。
【導入課題③】
(③情報漏洩が心配)
⇒対策事例:株式会社日本取引所グループ
総務省はテレワークセキュリティガイドライン 第4版を出しており、その中でテレワークの導入にあたってのセキュリティ対策のポイントを30項目以上にわたって掲げてあるために、通常のオフィスでの情報リスク対策に加え、これを可能な限り忠実に履行することで、テレワークでの情報漏洩リスクもかなり抑制されると考えられます。
このガイドラインには中には「テレワークの6種類のパターン」が挙げられていて、その第1項が「リモートデスクトップ方式」であり、これを中心に高いセキュリティを実現しているのが日本証券取引所グループです。同社の業務では株価を中心に証券市場に大きな影響を及ぼす情報を扱うため情報漏洩には特段の配慮が必要ですが、約1,100名の全社員においてテレワークの導入を実現しています。
【導入課題④】
(④導入するメリットがよくわからない)
⇒対策事例:株式会社WORK SMILE LABO
本稿の第1章3項(1-3.)の「テレワークのメリット」の項で、企業の導入目的について確認した中に生産性の向上や人材の確保が挙げられていましたが、総務省資料でも事例として取り上げられている同社は、2016年からのテレワークの推進で、初年度に残業の40%削減の一方で売上の5%増による、生産性の8%増を記録しています。また求人票に「在宅勤務可」と入れるだけで、応募が1.8倍になったということです。
各社の状況・環境によって、どの様なメリットがどの程度期待されるかは様々ですが、期待する成果を明確にし、事前に同業他社の情報を参考にしたり、総務省の事例集を確認したりしたうえで、自社での期待効果について導入前後で測定していくことで、メリットが分からないという問題も解決していくことが可能ではないでしょうか。
出典:総務省資料
【導入課題⑤】(⑤社内コミュニケーションに支障)
⇒対策事例:コニカミノルタジャパン
複合機ビジネスからソリューションサービスへの展開を進めている同社では、テレワークの推進にあたってインターネットを通じたテレビ会議システムの草分け的な「Skype For Business」を導入していて、テレワーカーのエピソードとして依然と変わらずに会議が開催出来たり、通院先などからもコミュニケーションが取れた例が挙げられています。
単にツールの問題だけでなく、企業文化や社内ルールの問題も絡む問題ですが、全社的な合意形成の上で、さらに各種のツールを活用することによって、コミュニケーションの問題を解決している企業の事例もあるということです。
3. まとめ
少子高齢化社会への対応や地域創生の為の施策としても、また働き方改革の一環として、さらには2020年夏に迫った東京オリンピックの混雑緩和策としても政府主導で導入が進められてきたテレワーク。今年に入ってからは新型肺炎対策もあって企業には前倒しての導入が求められています。
とはいえ、依然として導入に向けた課題を感じて進められないでいる企業も少なくないと思います。
テレワーク導入推進の主務官庁である総務省はじめ各機関の調査や資料、ガイドラインも参考にしながら、事前に課題対策を考慮した上で導入し、期待されるテレワーク導入のメリットを是非享受してください。
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