経営

企業の魅力・競争力に重要な「経営ビジョン」の作り方・見直し方(技術編)

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経営ビジョン

新卒社員の3年内離職率が30%を超えて高止まりする中、企業は人材を惹きつけ、引き止めておくために、給与以外の面においても魅力あるものでなければならなくなっています。2019年は中小企業を中心にかつてないほどの採用難との声も聞かれました。

社員を採用し、離職を防ぐには企業の魅力を高めておく必要があります。また魅力的な企業で高いコミットメントを持って働く従業員が、企業の競争力に大きな力となることは言うまでもないことでしょう。

企業の魅力には様ざまな面がありますが、今回はその根源とも言える「経営ビジョン」にスポットを当て、実際に中小企業でビジョンの新たな策定をしてきた方法論を基に、その実際の作り方、見直し方について整理してみました。

目次
1. なぜ今「再び」経営ビジョンか
 1-1. 確認:経営ビジョンとは
 1-2. 経営ビジョンの重要性
 1-3. VUCAの時代にこそ必要な経営ビジョン
2. 経営ビジョンの作り方、見直し方
 2-1. 未来を予測する
  2-1-1. 今起きている社会事情・変化を確認する
  2-1-2. 未来についての情報を集める
  2-1-3. 自社を取り巻く変化を予測する
 2-2. 果たすべき/果たしたい役割を想定する
  2-2-1. 必要とされる機能や喜ばれる事、社会的課題を想定する
  2-2-2. 自社/自身の過去〜現在を振り返る
  2-2-3. 予測した将来に果たすべき/果たしたい役割りを考える
 2-3. 言語化し共有する
  2-3-1. ビジョンを共有しやすい言葉でまとめる
  2-3-2. ミッションや理念も整合させる
  2-3-3. 計画作成や目標設定のベースとする
3. まとめ

1. なぜ今「再び」経営ビジョンか

採用大手のリクルートワークス研究所が発表している大卒求人倍率調査では、2020年には1.83倍と、採用難といわれた2019年よりは若干改善するものの、依然として採用難が続く見通しです。中小企業に限って言えば、こちらも2019年よりは改善するものの、8.62倍と依然として厳しい状況が続きます。(図1)

この高い求人倍率に対しては、他社、特に企業のブランド力や(給与水準を決める)企業体力の似通った同じような企業群、いわば競合に対してブランドや給与以外の、目に見える部分で魅力を形成して行く必要があります。これは今いる社員の引き止めにおいても同様です。

企業の魅力を形成するものは、上記の給与やブランドの他にも、成長性や特殊性、仕事環境や人間関係など様々ですが、その根柢にあるのが経営ビジョンや理念です。つまり、採用やリテンション(引き留め)の為の競争力の根源が、経営ビジョンなのです。

求人倍率
出展:リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査(2020年卒)」

1-1. 確認:経営ビジョンとは

経営ビジョンや理念、ミッションなどは、経営者や経営幹部で知らない人はいないほど重要な経営のキーワードですが、違いを理解し、明確に使い分けをしている方は意外に少ないのではないでしょうか。実際、辞書や解説者によって「経営ビジョン」の定義は様々であり、そもそも重複する部分があると解説しているものもあります。ただ「ビジョン」という視覚に関する言葉を含んでいる関係もあり、将来の姿、あるべき姿についてについて述べるものであることは間違いないようです。

ここでは「経営ビジョン」を簡潔に解り易く「(経営者や社員が描く)企業の将来あるべき姿」として話を進めます。また本稿では触れませんが「経営理念」については、同様に「念」(思い・考え)という言葉が使われている事から「企業の在り方や存在意義についての思い、考え方」と理解すると、経営ビジョンとの違いも分かり易いかと思います。

1-2. 経営ビジョンの重要性

上述のように「経営ビジョン」とは会社の将来あるべき姿を言葉にあらわしたものであり、そのために企業の在り方・魅力を構成する様々な要因を決めていく根本的な要素として重要なものです。

これがあれば
 ①企業内、外部にも自社の目指すものを分かり易く簡潔に示すことができる
 ②(組織的にも、個人的にも)計画や目標設定の基準となる
 ③(  〃     〃  )意思決定の基準となる

などの役割が期待されるとともに、関係者の共感を招いたり、モチベーションを高めたりすることさえできるものです。逆に一切のビジョン抜きでこれらのことを行うことの難しさも理解されると思います。

図:計画や目標の基礎となる経営ビジョン
ビジョンとプラン
出典:著者作成

1-3. VUCAの時代にこそ必要な経営ビジョン

VUCA(ブカ、またはブーカ)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を集めたものです。日本人にはあまり馴染みのない単語が中心であるためかそれほど広くは使われていないようですが、先の見通せない時代を言い表す言葉としてよくできた言葉だと思います。

過去が本当にVUCAで無かったかどうかはともかく、例えば総務省の情報通信白書(平成29年度版)に示すインターネット上の通信量の増加等に見るように、かつてなかったほどの情報量の増加や、それらに呼応するように社会そのものの変化が早くなっていることなどから、それを「先が見通せない」ということは出来そうです。

そして矛盾するようですが、「先が見通せない時代」だからこそ、会社が自社の事業分野を中心に、将来をどのようにみていて、その将来においてどの様な企業であろうとしているのかを示すことの重要性、そして必要性が高まっているのです。

~コラム1:ビジョンの重要性に関する書籍のご紹介~
本章では経営ビジョンの重要性について簡単に確認しましたが、2019年1月に株式会社ディープビジョン研究所の代表取締役/ブランド戦略コンサルタントである江上隆夫氏が朝日新聞出版から著された「THE VISION あの企業が世界で成長を遂げる理由」では、ビジョンの重要性について詳しく書かれているのに加え、明確でないビジョンが持つリスク要因までも書かれています。実際に幾つか(も)の有名企業のビジョンを例にとり、どこが良くてどこが悪いのかも分かり易く解説されています。「経営」という範疇を超え企業の存在そのものに果たす経営ビジョンの役割がよく理解される一冊だと思います。お時間のある方はぜひ一度、お読みになる事をお薦めします。

2. 経営ビジョンの作り方、見直し方

企業経営に重要な「経営ビジョン」ですが、実はその作り方や見直し方には確立されたものはありません。書籍やインターネット上の記事はいくつか(いくつも)ありますが、それらも実際に作り方について言及したものもあれば、「心得」的なものまで様々です。

また先にコラムで紹介した江上隆夫氏の著書の中でも「天啓のように降りてきたビジョンもあれば、企業活動の中からじっくり育まれたビジョンもあります」と書かれています。

とは言え、ビジョンを新たに作ろう、或いは作り直そう、という場合には、天啓を待ったり、じっくりと時間をかけるということもなかなかできないと思います。ここでは、経営ビジョンに技術的にアプローチする方法についてご紹介したいと思います。

2-1. 未来を予測する

経営ビジョンを作成するには、未来を予測することは避けて通れません。VUCAの時代に先を見通すことはある意味矛盾したことであり、容易なことではありませんが、以下のような手法でアプローチします。

2-1-1. 今起きている社会事情・変化を確認する(環境分析)

まず自社の事業領域/市場セグメントを中心に「今起きている社会事象・変化」を確認します。といってもまだ漠然としているので、フレームワークとしてお勧めするのが「PEST分析」です。Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の頭文字をとったもので、マクロ環境の分析によく使われるものです。

具体的には
・Politics(政治):政策議論や関連法・規制などの動向、或いは米中摩擦のような世界情勢やそこからの規制などの事項
・Economy(経済):経済見通しや、関連指標(例えば輸出額など)の推移・動向、シェアリングエコノミー化などの経済構造の変化などの事項
・Society(社会):人口問題(少子高齢化や労働人口現象)、ESGやSDGの流れ、オリンピック開催、所有から購買への変化(例えばSaaS、MaaS)などの生活スタイルの変化などの事項
Technology(技術):AI、ドローン、ブロックチェーン、ロボットなどの技術的な事項
について、実際の自社の事業領域、或いはそれに関連しそうなものを並べて挙げて整理し、どのように自社事業に影響しそうであるかを議論します。そのうえでやはり「3C」、「ファイブフォース」や「バリューチェーン」といったフレームワークワークを使って、自社を取り巻くどの部分に影響してくるかといった形で整理するとよいでしょう。

2-1-2. 未来についての予測情報を集める

同時に既に立てられている予測情報を集めます。よく年末が近づくとシンクタンクや戦略コンサルティングファーム、メディア、リサーチ会社などから次年度の「論点」はもちろん、中長期的な予測本やレポートが多数出されます。またネット上ではこれらの未来予測レポートのおまとめサイトなどもありますから、自社の領域に近そうなものをいくつか選んで、関係がありそうな部分を抽出します。

同様に、マスメディアやネットで広くオピニオンリーダーと見られている人々が語る社会全体の将来予測や、自社領域でのリーディングカンパニーや著名人のコメントなどの中に、将来について言及したものがないかを調べ、やはり集めて整理したうえで、社内で議論します。業界紙があればその特集記事なども参考にします。

情報収集やその整理には、前項同様にフレームワークを利用すると分かり易いでしょう。

2-1-3. 競合の動きをチェックする

もし自分たちが展開している/展開しようとしている事業領域に競合があるなら、それらの企業のこの2-3年の動き(施策)をチェックしましょう。外部への発表資料、新しい商品やサービスのスタート、価格などの大幅な変更、幹部や拠点の変更などから、将来への布石が読み取れないかを確認します。もしそれが読み取れたなら、自社はどうすべきかを議論します。特に複数社が似たような新たな動きを始めているならば、自社はどうするのか、の議論は少なくとも必要となります。

最終的に、上記の社会・市場・事業と競争環境の現状や将来予測についての情報収集、議論を通じて、自社を取り巻く環境変化を時間軸とともに予測として整理します。当然時間軸が遠い予測ほど曖昧になりますが、5年後程度まではある程度リアルに、10年後は「こうなっているだろう/こんなことが具体化しているだろう」、20年・30年先は「わからないけれどもこんな可能性がある」といった感じで十分だと思います。

2-2. 果たすべき/果たしたい役割を想定する

予測が難しい時代に、少なくとも自社の事業領域についての将来予測を立てたら、次にそこにおける「(経営者や社員が描く)自社のあるべき姿」=経営ビジョンをイメージしていきます。実際には以下のようなステップを踏むとよいでしょう。

2-2-1. 必要とされる機能や喜ばれる事、解決すべき課題を想定する

まず前項で想定した自社の事業領域の将来予測の中で、対象としている顧客層が必要すること、喜ばれること、社会的課題として解決されるべきことなどを挙げていきます。最初はあまり絞り込まずに、まずは広く膨らませてイメージしていくのがポイントです。

ある程度の項目が出たら、横に時間軸、縦に優先度でプロットすると、自社が取り組むべき課題が見えてきます。

2-2-2. 自社/自身の過去〜現在を振り返る

一方で、自社が果たすべき役割を決める前に是非行っておきたいのが、自社や自分たち自身の「振り返り」です。新たな将来ビジョンの策定の前に創業時の理念や当初のビジョンはもちろん、その背景や重大な経営トピックなどを一度まとめて振り返っておくと、自社の将来あるべき姿=新たな将来ビジョンの参考、判断基準になることがあります。創業に際してビジョンを新たに作る場合には、集まったメンバーの個人的な背景、仲間として集った背景などがこれにあたります。

2-2-3. 予測した将来に果たすべき/果たしたい役割りを考える

最終的に、予測した未来とそこでの市場や顧客のニーズにたいして、自社がどのように価値を提供していくか/応えていくかという「(経営者や社員が描く)企業の将来あるべき姿」を明らかにしていきます。2-2-1項で挙げた社会や顧客が将来必要とする機能も、2-2-2項で挙げた自社の立ち位置の振り返り等を通じた取捨選択から、優先度を明確にしていきます。それを言葉で定義していくと、これがほぼ「経営ビジョン」となります。

2-3. 言語化し共有する

経営ビジョンは策定/作り直しに参加したメンバーの間ではほぼ正しく理解されていると考えられますが、顧客をはじめ取引先や社会に広く示し、また参加していない社員にも正しく理解され、さらには自社への共感や実現へのモチベーションを得ていくためにも、表現に工夫を凝らすとより効果的なものになります。

2-3-1. ビジョンを共有しやすい言葉でまとめる

固められた経営ビジョンは「分かり易さ」「簡潔さ」「独自性」「語感」などに配慮し社内外で内容を共有しやすく、かつ共感を呼びやすい表現に工夫を凝らします。場合によってはコピーライトの専門家などに依頼するのも有効な選択肢の一つです。

2-3-2. ミッションや理念も整合させる

経営ビジョンを策定したり、作り直したら、理念やミッションとも整合を取っていきます。本来は理念に基づくものであることになりますが、場合によっては時代の変化に合わせて全体を再構築する必要がある場合もあります。いずれにしろ、理念、ビジョン、ミッションに齟齬や違和感があると現倍の混乱を招いたり、外部の共感を得られなかったりするので、整合性についても十分に議論します。

2-3-3. 計画作成や目標設定のベースとする

経営ビジョンが固まったら、それをいつまでのどのような形で実現していくのかを決めるとおのずと中長期的な事業計画のベース、目標設定のベースとなります。中長期的なビジョンを達成していくためには3年後にはこのような形を作っておきたい、そのための具体的な数値はこの程度、といった具合です。

最初にビジョンの重要性の中でも述べましたが、計画目標が単なる数値でなく、どの様な姿を描くためのものであるかの背景があると、トップ以下、取り組む社員のモチベーションにも大きく影響してくるのです。

~コラム2:ビジョンづくりの進め方~
実は第2章では経営ビジョンの作り方、見直し方について「何をするか」を主眼にお伝えしてきました。同時に「(組織の役割などにおいて)どう作るか」という部分は殆どご紹介していません。

これについては企業の規模やリソース、意思決定の仕組み、或いは企業文化などによって様々だと考えるからなのですが、第1章でご紹介した「THE VISION」誌や2019年7月に日本総研 未来デザイン・ラボ プリンシパルの時吉康範氏らが日本経済新聞出版社から出版されている「2030 経営ビジョンのつくりかた VUCA時代を乗り切る」等に実際に社内にチームを作ってまとめていく方法が書かれていますので参考にされてください。主観ですが、どちらかというと前者は規模が小さい企業、後者は比較的規模の大きい企業に相応しいようです。

3. まとめ

VUCAの時代といわれる、先が見通せない今日であるからこそ、将来に向けた経営ビジョンを掲げて、魅力、そして競争力のある経営をしていかなければなりません。

優れた経営ビジョンの中には「天啓」の様にして得れたもの、長い年月が醸成したものも確かにありますが、組織としてそれに迫るもの、代わるものを作り出していくこともまた可能です。

安易なものは却ってマイナスになる様な面もあり決して楽な作業ではありませんが、是非、時間と労力を割いて、素晴らしい経営ビジョンを掲げた企業になってください。

 

 

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