経営

高まる中小企業不要論⁈危機をチャンスにするために経営者がすべき3つの事

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
中小企業不要論

デービッド・アトキンソン氏が2019年9月に著した『国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか』(講談社+α新書)を巡って、中小企業「不要論」についての議論が盛んです。

ゴールドマンサックス証券のアナリストから日本の伝統工芸企業の社長という異色の経歴と、30年に及び日本経済を研究してきた知見をもとに書かれた本書は、ややもすると中小企業「不要論」だけを唱えているとも捉えられそうですが、タイトルにもあるように中小企業改革で再び日本の国運が輝くことを願って書かれたものです。
日本経済の停滞の要因を中小企業の低い生産性に求め、さらにその背景要因を1964年の中小企業基本法による中小企業擁護の施策であると断じ、対策として最低賃金の引き上げを提唱しています。
最低賃金の引上げ実現の道筋についてはそれほど詳細に書かれていないことや、結果として中小企業は半減するだろうとの論調から、ややもすれば「暴論」とも捉えられかねませんが、中小企業の生産性の低迷が日本経済の停滞の要因であること、社会保障の維持などの観点からもこれを改革しなければならないことは、論を待たないでしょう。

後継者難や人材難からも、中小企業の経営はますます厳しくなることが予想されています。今回の議論の高まりを機に、危機を乗り越え変革のチャンスとするために、中小企業の経営者が今すべきことを考えてみました。

目次
1.中小企業不要論とは
 1-1. 日本経済の低迷は中小企業の低生産性のせい?
 1-2. なぜ中小企業の生産性は低いのか
 1-3. 基本的な選択肢は?
2. 中小企業の生産性向上の3つの基軸
 2-1. 生産性向上のための投資
 2-2. ゼロベースからの業務の見直し
 2-3. 社風や社内制度の変革
3. まとめ

1.中小企業不要論とは

「中小企業不要論」についての議論が高まっています。日経ビジネス誌でも、2019年11月25日刊の紙面で「中小企業 本当に要らない?」と題して特集を掲載し、帝国データバンクの調査として『「大廃業時代」の幕開け向こう1年で31万社が存亡の機』というショッキングな情報も提供しました。

そもそも、中小企業不要論とはどのようなものなのでしょうか。

1-1. 日本経済の低迷は中小企業の低生産性のせい?

かつて世界第2位のGDPを誇り現在でも世界第3位の地位を維持している日本ですが、1位と2位の米中が、1990年から30年間にわたって成長を続けているのに比べると、その間に殆ど成長していません。(図1)この間、欧州先進国等もわずかずつではありますが成長を続けてきており、日本の停滞が目につきます。このことをさして「失われた30年」等という言葉も使われるようになりました。

【図1】主要国の名目GDP推移比較
GDP
出展:グローバルノート(https://www.globalnote.jp/)より作成

この要因には、国内の労働人口の7割近く、付加価値額(GDP)の半分を占める中小企業(図2)が、その一人当たり付加価値額が低いこと、すなわち低生産性にあるのではないかといわれています。

【図2】日本の産業に占める大企業/中小企業の割合
産業構成比
出展:中小企業庁 2019年版「中小企業白書」より抜粋

2019年10月に経産省が作成した資料でも、この30年の期間に大企業が生産性を伸ばしているのに対し、中小企業が生産性を低下させていることが明らかにされています。(図3)

【図3】1990年以降の企業規模別の生産性推移
一人当たり生産性
出展:経済産業省 「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」(平成29年10月)より抜粋

これらの資料を見る限り、日本経済の低迷が「中小企業のせい」というのは、表現の是非はともかく、事実のようです。

この様な状況を背景に、このままでは少子高齢化社会を支え切れなくなるなどの社会問題の解決のために、産業構造の変革として中小企業を減らしていくべきではないかという主張がいわゆる「中小企業不要論」です。

1-2. なぜ中小企業の生産性は低いのか

ではなぜ中小企業の生産性は低下してきたのでしょうか。
中小企業白書によると、中小企業は労働者数では大企業の倍以上、企業数に至っては300倍近くを占め、付加価値額の半分以上を占めるにもかかわらず、設備投資や研究開発費の総額は大企業の総額の半分程度となっています。中小企業の労働者はそれだけ設備(図4)や研究開発費(図5)、ソフトウェア等への投資(図6)の少ない環境で働いている(労働装備率が低い)ということになります。

また中小企業の給与水準もやはり大企業より相当低くなっており(図7)、今回アトキンソン氏の主張にあるように、賃金の差も生産性に影響しているとも考えられます。

【図4】設備投資額の比較
設備投資
出展:中小企業庁 2019年版「中小企業白書」より抜粋
【図5】研究開発費の比較
研究開発費
出展:中小企業庁 2019年版「中小企業白書」より抜粋
【図6】ソフトウェア関連投資額の比較
ソフトウェア関連費
出展:中小企業庁 2019年版「中小企業白書」より抜粋
【図7】給与水準の比較
給与水準
出展:中小企業庁 2019年版「中小企業白書」より抜粋

1-3. 基本的な選択肢は?

大企業に比べて中小企業の生産性が低く、さらに低下傾向にあることは確認できました。しかし「国運の分岐点」がいきなり中小企業の不要論、統廃合を唱えているかというと、そうではありません。
少子高齢化が急速に進む中で社会保障制度を維持しようとすると、アトキンソン氏の試算では若者を中心に現在の所得では社会保険料の負担のためにも最低賃金が現在の倍(2,150円/時間)程度必要となるそうです。中小企業を保護する面の強い1964年の中小企業基本法下に永くあった中小、特に零細(書籍の中では「ミクロ」と表現)企業の経営力ではこれを負担するのは難しく結果としての倒産していくことになるだろうが、それはむしろ国益となるだろう、と述べているのです。

実際問題として、中小企業不要論を受けてすぐに法改正や制度に反映される可能性は低く、現時点では中小企業改革の必要性への警鐘であり、提案であると言えます。
しかし、中小企業の経営者やそこで働く従業員は、社会的な情勢を背景にそのような議論や流れがあることを今のうちから認識しておく必要があります。

では、そのような流れの中で、中小企業の経営者向かうべき道の選択肢にはどのようなものがあるのでしょうか。
基本的な選択肢は以下の3つになると考えます。
 ①自社で生産性を高めて生き残れる企業となる
 ②M&A等による統廃合に参加して、全体として生産性を高める動きに参加する
 ③自主廃業(or倒産)する

第2章では上記の3つの選択肢の中の「①中小企業が自力で生産性を高めて生き残れる企業となる」ためのポイントについて考えてみます。

2. 中小企業の生産性向上の3つのポイント

日本の社会に中小企業が将来も必要なのか不要なのかはともかく、中小企業の生産性の向上への圧力/要請が高まっていることは確かです。

とはいえ、第1章で確認したように、1990年代からの30年にわたって大企業と比べて設備投資やソフトウェア・研究開発などへの投資、或いは従業員への給与水準が限られてきたために現在の低い生産性に陥っている中小企業は、どうやってこれを克服していけばよいのでしょうか。ここでもさらに生産性向上のための3つのポイントを挙げてみました。

2-1. 生産性向上のための投資

中小企業の場合は投資のための絶対的な企業体力(資金等のリソース)が限られているのですが、アトキンソン氏の指摘にあるように、これまでの制度面などからも、中小企業経営者に規模拡大や生産性向上へのインセンティブがあまり働いてこなかったことも、中小企業の労働装備率が低い一因です。新たな投資の原資をどこに求めるかなどの議論はありますが、生産性向上のための投資は生き残り/改革のための重要な選択肢の一つです。

幸いにも近年ではソフトウェアのクラウド化やいわゆるサブスクリプション化等が急速に進んでいます。一般的な会計ソフトウェアやグループウェア、営業関連システムなどは、以前とは比べ物にならなくらい安価に、かつ容易に導入が可能になっています。この機に業務全体を見直して生産性向上のための投資をすることは、既に先行して投資を行ってきた大企業に比べれば、少額な投資でより有効な生産性向上が可能である(≒投資効果が高い)という意味も持ちます。

2-2. ゼロベースからの業務の見直し

経営や管理部門の人材も不足しがちな中小企業では、現在の体制や業務が自然発生的に形成されてきたり、創業期に形作られたままに、大きな見直しを経ることなく続いている例が少なくありません。前項の設備投資とも絡みますが、多くの業務が従来からの紙ベースによる処理、人力ベースによる労働を前提としたうえで、無駄や重複を含んだまま何年も継続されています。

また最近では例えば営業では「デジタルマーケティング」「コンテンツマーケティング」、「インサイドセールス」などの新しい手法、製造では3Dプリンターの導入やAIによる熟練工のノウハウの再現、受発注との組み合わせではネット経由でのBTO(Built To Order)の拡大、総務管理系業務では経理や請求を中心としたアウトソーシングなど、様々な業務の分野で新しい業務のやり方・仕組みが生み出されています。

前項の設備投資と併せ、従来の延長にない全く新しい手法の導入も視野に入れ、いわばゼロベースで業務の見直しを徹底的に行うことで、まだまだ生産性を大きく向上できる可能性が十分にあるのです。

2-3. 社風や社内制度の変革

最後に、業務でもツール(設備やソフトウェア)でもない、会社の在り方全体も見直すことで、より効率的な会社にする余地があります。システムや設備を導入し業務の見直しを行っても、旧来の既得権益や社風、制度が阻害要因となることも少なくないのです。

規模が小さいほどオーナー経営/同族経営の比率が高くなる傾向にある中小企業(図8)では、経営改革や新たな手法の導入は、必要な知識やノウハウ、インセンティブなどの面からも限界があります。特に設備投資や労働分配率の変更(従業員の賃金上げ)は出費が先行しがちで、株主でもある経営者の目先の利益を損なう事が多いため、往々にして見送られがちです。
今回のような「中小医業不要論」などの高まりを背景に危機感を高めて、あらためて取り組むことで、これらを打ち破る可能性が高まります。

【図8】企業規模別の同族企業比率
オーナー経営
出展: 2003年版 中小企業白書

3. まとめ

高まる「中小企業不要論」。社会に与えるインパクトの大きさからもその議論の行方を見過ごすことができませんが、特に当事者である中小企業の経営者や従業員の皆さんは、議論の背景や大企業と中小企業の差異の現実などを理解した上で、是非この機会を改革のチャンスに変えるべく臨んでください。

 

【この記事を読んだ方に人気のサイト内の関連記事】

4象限マトリクスによる経営者自身での経営戦略・事業戦略の立て方とは

中小企業に大影響!働き方改革の残業規制には3視点からの生産性向上で対策を

企業の魅力・競争力に重要な「経営ビジョン」~作り方・見直し方(技術編)

オープンソースから自社で収集!ビジネスの未来予測7つの情報源

会社売却を検討中のオーナーが相場より高く売るために今できる5つのこと

急な対策でも!課題を考慮したテレワーク導入でメリットを最大化する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

中小企業・ベンチャーの営業構築、経営改善支援の えむビジネスサポート

中小企業やベンチャーでは経営企画やマーケティング機能のために

1人の社員を配置し続けることは負担が大きいものです。


本サイトでは、記事を読んでいただくだけで

具体的な実行イメージができるだけ掴めるように心がけていますが、

やり方が伝わらなかった部分、どうしても自社で戦力を割けない部分は

えむビジネスサポートとしてお手伝いさせていただけます。

えむビジネスサポートのメニューもぜひ一度ご覧ください。




 


えむビジネスサポートのサイトへ

コメントを残す

*

CAPTCHA