経営

4象限マトリクスによる経営者自身での経営戦略・事業戦略の立て方とは

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戦略の立て方

米中摩擦や消費増税に端を発する国内企業の業績悪化は、中国・武漢を震源としたコロナウィルスの拡大によってその回復の腰を折られる形となっています。2020年2月17日の日経新聞朝刊でも、世界の主要企業における純利益の伸びが鈍化するなか、同年1-3月期の日本における6四半期連続のマイナス成長の予想を報じました。ウィルス禍が長引けば、景気や企業業績への一層の影響も懸念される状況です。
そのような経済環境の中で企業が意図する成長を実現したり、生き残りを図るには、限られたリソースを有効に活かす経営戦略・事業戦略の設定が重要です。戦略を間違えれば、ますますの業績悪化も待ち構えます。それだけの重要事項であるために、経営者自らが考える事を避けて通れませんが「戦略策定」は経営事項の中でもとりわけハードルが高い印象があります。
ここでは「経営戦略の父」とも言われたイゴール・アンゾフが考案したシンプルなマトリックスによる戦略の考え方を紹介し、経営者自らが自分自身で経営戦略・事業戦略を考える方法をお伝えします。

目次

1. 成長にも生き残りにも重要な経営戦略・事業戦略
  1-1. 経営戦略・事業戦略とはなにか。事業計画との違い
  1-2. なぜいま「戦略」が必要なのか
  1-3. 経営者自ら考えることが重要
2. 戦略策定の基礎「アンゾフのマトリクス」
  2-1. 経営戦略の父、イゴール・アンゾフとは
  2-2. シンプルな4象限、アンゾフのマトリクス
  2-3. アンゾフのマトリクスの3つの優れた点
3.アンゾフのマトリクスで自社の戦略を考える
  3-1. マトリクス上での選択肢を考える
  3-2. 選択肢の具体性を検討し評価する
  3-3. 最善・最上の選択肢/組み合わせで「最適化」
4.まとめ

1. 成長にも生き残りにも重要な経営戦略・事業戦略

「VUCAの時代」とも言われる先の見えない経営環境の中、競争や変化に対応して成長や生存を図るには、適切な戦略に基づく経営が不可欠です。まず経営戦略・事業戦略の重要性を確認しておきましょう。

1-1. 経営戦略・事業戦略とはなにか。事業計画との違い

言うまでもなく「戦略」という言葉は本来は戦争や戦争に用いられる言葉で例えば広辞苑では「経営戦略」は「外部に対して、企業が効果的に適応するための基本的な方針・方策。」と定義されています。

「事業戦略」についてのここでは大企業などで複数の事業部門を持つ場合のそれぞれの事業についての経営戦略と解し、ほぼ一つの事業を行っている会社であれば、経営戦略=事業戦略といってよいでしょう。

一方で「事業計画」(或いは経営計画)とはそれらの方針・方策に沿って具体的にいつ、どのような行動やその結果としての数値をもたらすのかを明らかにするものです。

このために、本来的には「戦略」が無ければ「計画」も作れない筈ですが、実態としては多くの事業計画は戦略不在の中で、過去の延長や業界シェアや売上/利益などについて「これくらい行きたい/欲しい」といった希望や要望から作られていることが少なくないようです。

1-2. なぜいま「戦略」が必要なのか

- イギリス人は歩きながら考える.フランス人は考えた後で走り出す.スペイン人は走ってしまった後で考える - エスニックジョークとして知られる言葉ですが、戦略を立てるということは、基本的にはどのように企業の経営や事業の目的を達成するのかの「基本的な方針」を決めて取り組むということであり、これがなければ前項の定義のとおり「効果的に」取り組めないという事です。

景気全体が着実に上向いているとき、業界平均や競合に対して多少の後れを取っても、自社の業績もある程度成長する、という可能性があります。しかし、現在の様に企業業績全体が横這いやマイナスにある時、優れた戦略で業績の成長・生存を図らなければ、最終的には事業としての退出を余儀なくされてしまいます。つまり、環境の悪い今こそ確かな経営戦略・事業戦略が必要なのです。

1-3. 経営者自ら考えることが重要

経営戦略・事業戦略は事業計画を通じた投資や費用の配分の基礎となる経営上の重要事項です。適切な戦略に基づいて有効な投資や費用の配分を有効に行っていく企業と、不適切な戦略で無駄な投資や費用を費やしていく企業の将来は自ずと違ってきます。このために、経営戦略・事業戦略の策定においては、経営者自らが考え、意思決定することが重要です。

2. 戦略策定の基礎「アンゾフのマトリクス」

大企業であれば、既に戦略策定の仕組みや優秀な人的リソースがあり、戦略策定において経営者の役割は専ら判断に寄り、自らが手を動かす事はほとんどないでしょう。一方で数としては大多数をしめる中小企業では、経営者は常に成長策、生き残り策を考え続けている一方で「戦略」として整理されていないのではないでしょうか。

ここでは、規模の大小、自身の役割やリソースに拠らず自社の戦略を考えるシンプルな基礎的な手法として「アンゾフのマトリクス」を紹介します。

2-1. 経営戦略の父、イゴール・アンゾフとは

イゴール・アンゾフ(1918-2002)はロシア系アメリカ人の数学者・経営学者であり、経営者です。米国のブラウン大学で数学の博士号を取得、空軍のシンクタンクや航空会社等で働く中で、経営の多角化論を説き、1957年にハーバードビジネスレビューに掲載された論文の中に既にアンゾフのマトリクスが掲載されています。

後にカーネギーメロン大学の教授に招かれ、1979年には「アンゾフの経営戦略論」(原題「Strategic Management」)を著し「戦略は組織に従う」という言葉でも有名になりました。

2-2. シンプルな4象限、アンゾフのマトリクス

アンゾフのマトリクスの原型は、1957年にに見ることができます。企業の成長には多角化が必要と説いたアンゾフらしく?この際のマトリクスは横軸に市場としてμ0~μ5、縦軸に製品ラインとしてπ0~π5をとったやや複雑なものですが、μ1~μ5は個別の新市場、π1~π5は個別の新製品を指していることから、現在では既存市場・新市場/既存製品・新市場の4象限にシンプルにまとめて使われています。

図1:初期のマトリクス
初期マトリクス

図2:一般的に使われているアンゾフのマトリクス
一般的マトリクス

2-3. アンゾフのマトリクスの3つの優れた点

まず第1に、非常にシンプルであることです。シンプルであるがゆえに、直感的に取り組みやすく、案を作った時点である程度整理されたものになっています。

例えばしばしば企業の強みや弱み、市場の機会や脅威をもとに戦略作成に迫ろうとする「SWOT分析」も同様に4象限のマトリクスですが、SWOT分析そのものはいわば事柄の整理であり、そこから戦略を策定するには、そこからさらにマトリクス(TOWS分析などと呼ばれます)を作って検討するなどの必要があります。同様に事業の構造をもとに戦略を考える「5フォース」(Five Forces)や「バリューチェーン」も、まずは自社を取り巻く競合や流通、社内の構造などを多面的に整理することからアプローチするため、時間と労力が係るものになっています。

第2の優れた点は、シンプルにすることで抜け漏れや重複のないもの(いわゆるMECE(ミーシー:Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive:))としての整理がより明確になり、使いやすいものとなっていることです。

さらに第3の優位点としてやはりシンプルであることに起因して、全体感をつかみやすく、議論がぶれにくいということがあります。

戦略を素案から最終案へと議論などで高めていく際、或いは実行していく際に、社員や取引先、株主などの利害関係者に説明したり、議論する必要が生じることがありますが、そのような際にも主旨が分かり易く、伝わり易いものとなります。先に挙げたような事柄の整理から入る戦略策定は細かな選択肢が頻出し、案やその過程での作業が膨大になり、そのうえ議論がまとまりにくという難点があります。

3. アンゾフのマトリクスで自社の戦略を考える

ではいよいよこのアンゾフのマトリクスを用いて、自社の戦略を考えてみましょう。

3-1. マトリクス上で戦略の選択肢を考える

まず、単純化したアンゾフのマトリクスの4つの象限の中で、取りうる選択肢を考えましょう。

  1. 浸透戦略:現在の製品(商品やサービス)を、現在の市場(国や地域などのロケーションや、顧客層など)でより浸透させるには、どのような方策があるか
  2. 市場開拓:現在の商品やサービスを拡販できる新たな市場があるか
  3. 製品開発:現在の市場に対して、新たに開発して提供できる製品があるか
  4. 多角化:新たな製品で新たな市場への参入の方策があるか

アンゾフは企業の成長は4.の多角化を重視すべきだとして、実際に当時勤めていた企業で多角化を推進し、黒字化させた実績があるそうですが、多角化は4つの象限の中では一番難しそうな選択肢でもあります。

3-2. 選択肢の具体性を検討し評価する

マトリクスを用いて、その時点で考え得る選択肢を全て挙げたら、それぞれの案の具体性を検討し、評価します。実現に必要なノウハウ、人や投資、費用などのリソースと時間軸、実現した場合の効果や失敗のリスクなどについて、イメージしたり、情報を集め整理したりを行います。

さらにそれぞれの戦略案を、必要なリソースを用いてどのように実現すれば、効率的に、或いはライバル企業などに優位性をもって進めることができるのか、いわば戦術についても想定しますが、まずは簡単な検討・評価で良いでしょう。

実現性や戦術の詳細については、その後に実際に構築した戦略案具体化していく際に社内で議論しながら、SWOT分析やバリューチェーンなどの分析も交えながら詳細を詰めていくと良いでしょう。

3-3. 最善・最上の選択肢/組み合わせで「最適化」

マトリクスの4象限上で施策の選択肢が明らかになったら、自社の市場環境・競争環境、体力(リソース)から見て最善・最上と思われる施策或いはその複数の組み合わせの選択を行います。場合によっては1点集中、時系列で順次行うというようなことも、はたまた複数を同時に行うということもあるかもしれません。いずれにしろ、自社が思い描く成長、或いは生き残りの為に最善な取り組みを時間軸まで含めて「最適化」することで、経営戦略或いは事業戦略が構築されます。

図3:戦略策定の流れ
策定フロー

なお、今回は経営者自身で考える戦略の立て方として、いわば最小限のアプローチをご紹介しています。SWOT分析やファイブ・フォース、バリューチェーン等からのアプローチを組み合わせて議論することで、より揺るぎない戦略の構築が可能になりますので、時間が許せば、或いは優秀なスタッフがいるならば、是非トライしてみてください。

4.まとめ

戦後、1980年代にかけての日本経済の復興は「ジャパンアズナンバーワン」とまで言われて、世界第2位のGDPを実現しましたが、1990年代以降今日までは「失われた30年」とも呼ばれ米国・中国の成長を横目に停滞を続け、冒頭の日経記事の様に6四半期にわたる企業業績のマイナスとさらなる脅威に直面しています。

マイナス局面こそ成長、或いは生存に経営戦略・事業戦略が欠かせません。また戦略の選択と実行は経営上の重要な意思決定であるために、経営者自らが考えることが不可欠です。

戦略の考察を具体的にどのように進めるかは規模をはじめとした社内体制の違いで経営者ごとに異なりますが、アンゾフのマトリクスを通じた基本的な考え方は普遍的に適用が可能です。経営者の方はもちろん、一社員の方も、一度経営者になったつもりで、自社の戦略を考えてみませんか。

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