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中小企業の営業改革:デジタルトランスフォーメーション(DX)の3要点

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営業改革

2018年9月、経済産業省は「デジタルトランスフォーメーション(DX)レポート」(サマリー版はこちら)を出し、その中で「2025年の崖」と題して、国内企業の多くは複雑化、ブラックボックス化したいわゆるレガシーシステムに依存しており、DXの為には大幅な業務改革が必要であって、この課題を克服できない企業は2025年頃には「デジタル競争の敗者になる」と警鐘を鳴らしました。

それから1年後の2019年9月、元ゴールドマンサックス証券のアナリストで、現在は日本の伝統工芸企業の社長を務めるデービッド・アトキンソン氏が『国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか』(講談社+α新書)を著し、今後中小企業の統廃合や淘汰が急速に進むと予測する「中小企業不要論」等の議論が一気に高まる事になりました。

一方で足元では、2020年3月9日に内閣府が発表した四半期別GDP速報で、2019年10~12月の実質国内総生産(GDP)が年率換算で7.1%減であったことが明らかにされ、さらに同じ日に政府の専門家会議は新型コロナウィルスの感染拡大の防止のために各種の自粛がさらに必要との見解が示されました。景気後退局面が懸念される中で企業社員の在宅勤務や営業職の訪問自粛などが続き、企業業績の悪化に追い打ちをかけています。

4月には働き方改革による残業規制の中小企業への適用なども待ち受けており、中小企業にはデジタルトランスフォーメーションをはじめとした経営改革、営業改革はもはや待ったなしの状態です。

本稿では、中小企業を念頭に、営業改革としてのデジタルトランスフォーメーションの遂行のポイントを3点にまとめてみました。必要なツールの価格なども下がってきていて、概要を理解すれば取り組みへのハードルはかなり低くなります。是非この機会に様々な逆境を乗り越えて新たなチャンスを築いてください。

目次
1. 営業領域でのデジタルトランスフォーメーション(DX)と中小企業
 1-1. 営業改革におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)とは
 1-2. 「中小企業にも今こそDX」の訳
2. 営業改革のデジタルトランスフォーメーション、3つのポイント
 2-1. ポイント1:顧客の「現在の」購買行動を確認する
 2-2. ポイント2:新しい営業戦略を組み立てる
 2-3. ポイント3:ツールを活用した体制を構築する
3. まとめ

1. 営業領域でのデジタルトランスフォーメーション(DX)と中小企業

「デジタルトランスフォーメーション」(DX:Digitalの頭文字「D」と、変化を一文字で表すとして使われる「X」からなる略語)という概念は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した、IT技術の浸透によって人々の生活の全てがより良い方向へ大きく変化していくとの説に始まるといわれています。(総務省:平成30年版情報通信白書

本来は生活全般に向けた言葉のようですが、企業活動、さらには営業面でのDXとはどのようなものなのでしょうか。

1-1. 営業改革におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)とは

ここ数年、国内でも先進的な企業は既に、営業やマーケティングの領域で「デジタルマーケティング」「ウェブマーケティング」「コンテンツマーケティング」等の言葉とともにDXを進めてきています。

2019年4月には米国発の営業支援ソフトウェア最大手「セールスフォース・ドットコム」の日本法人がその後の5年間で当時1,500人の社員を3,500人にまで拡大すると発表していることなどからも、国内企業の営業領域でもDXが大きく加速している事がうかがわれます。

営業領域のDXでは潜在顧客が自社と何らかの接点を持った時から、実際に商品やサービスを購入して顧客となる、或いはなかなか購買に至らないといった段階を経て、さらに購買があったものの離れていっている、或いは繰り返しの優良顧客になっているといった履歴データ、どのような顧客であるかのプロファイル情報、ホームページの閲覧やメール、電話でのコミュニケーション履歴などを統合的に管理共有します。そのうえで、自社の優良顧客になってくれるように最適なタイミングで最適な情報を提供するアクションを構築していきます。

ベンダー企業はMA(マーケティングオートメーション)やSFA(営業支援システム)、CRM(顧客管理)、DMP(データ統合プラットフォーム)など、営業領域でのDXに有効なツール(システム)を用意し、導入に際してのアドバイスやサポートも同時に提供しながら顧客企業を支援していて、まずは先進的な企業から営業領域でのDXが進みましたが、その変化の大きさからもはや「営業改革」と呼ぶべきものになっているのです。

1-2. 「中小企業にも今こそDX」の訳

しかし、日本のGDPでその約半分、企業数に於いてはなんと99.7%(中小企業庁 2019年版「中小企業白書」)を占める中小企業では、資金や人材、ノウハウといったリソースの制約などから、営業はもちろんあらゆる面でDXは進んできていません。やはり中小企業白書で、中小企業全体のソフトウェアへの投資の全体額は、大企業のそれの7分の一程度にとどまっていることも明らかにされています。

前述のように顧客のあらゆる情報に対して、購買を促す最適なアクションを取るための情報の統合において、ソフトウェア投資の少なさは大きな制約です。

幸い、先進的な企業がDXを先行してきたおかげもあって、営業領域のDXに用いられる各種のツールにも比較的安価なものが出てきています。これからDXに取り組む企業は費用対効果の面では有利に取り組むことが可能になってきたと言えます。

【図】ソフトウェア関連投資額の比較

ソフトウェア関連費
出典:中小企業庁 2019年版「中小企業白書」

また同時に、中小企業の経営の担い手の高齢化が進んでおり、後継者不在と相まって廃業リスクが高まる中小企業も少なくない中、冒頭のように「中小企業不要論」も高まりました。

図:進む中小企業経営層の高齢化
高齢化
出典:中小企業庁 2019年版「中小企業白書」

図:中小企業の後継者の現況
後継者不在率 代表者年齢別゙
出典:東京商工リサーチ「2019年「後継者不在率」調査

経産省の言う「2025年の崖」を乗り越えるために多くの産業、企業が国際的なデータ活用競争に勝たなければならない情勢の中、生き残りを図るためには「中小企業が、今こそ」営業改革にDXを取り入れなければならない状況なのです。

2. 営業改革のデジタルトランスフォーメーション、3つのポイント

それでは、中小企業がこれから営業改革としてDXを取り入れていくには、どの様な点に気を付ければよいのでしょうか。

ここでは主要なポイントを3つに絞ってお伝えしていきます。

2-1. ポイント1:顧客の「現在の」購買行動を確認する

まずは顧客の「現在の」購買行動を確認します。ここでは敢えて「現在の」と強調している事に重要な意味があります。なぜなら顧客の購買行動がここ数年で変化してきているからです。

BtoC事業ではここ数年、 個人の消費の意思決定要因が、テレビや雑誌、街頭広告などから、スマホを通じたSNS上での友人やインフルエンサーと呼ばれる影響力の高い利用者、或いはeコマース(EC)サイトでの評価やレコメンデーション等に移ってきました。
BtoB事業でも、顧客企業の購買担当者の情報収集が系列企業や出入り業者などからネット中心に移ることで、顧客への働きかけのポイントや内容が変わってきています。

 例えば、これまでは系列のコネや馴染みの取引先として「前と同じもの」を繰り返し購入してくれていた企業が、社内のコスト削減圧力により、より安価な同等品、より質の良い同等品、より納品やサービスの優れたものをネットで探し出して去っていくかもしれません。その様な既存顧客に対しては、自社の商品が少なくとも他社に乗り換えるよりは継続に値する商品であることを、ネット上でもアピールしておいたり、新規顧客に対して競合よりもメリットを提供できることをやはりネット上でも示しておく「ウェブマーケティング」「コンテンツマーケティング」の準備が必要になります。 

また社内判断、購買意思決定に時間を要する商品やサービスの場合、初回のコンタクトから実際の購買までの中の適切なタイミングで、適切な情報を、均質かつ低コストに提供できる「インサイドセールス」の設置なども検討しなければなりません。 

このように提供する商品やサービス、或いは顧客側の環境の変化や業務のIT化などの状況によって、その購買行動は異なり、対応する提供体制も異なります。まずは自社の顧客が「現在」どの様に商品やサービスを選定し、どの様な検討プロセスを経て購入に至っているのかをしっかりと確認してみてください。

顧客の購買行動の確認・可視化から施策検討、営業戦略策定、そして社内共有には「カスタマージャーニーマップ」と呼ばれるツールが使われるようになってきました。本サイトでもマップ作成と営業戦略への活用の記事をご紹介していますので是非ご一読ください。
 
図:カスタマージャーニーマップの例
ジャーニーマップ1

2-2. ポイント2:新しい営業戦略を組み立てる

顧客の「現在の」購買行動が確認出来たら、自社と顧客の接点となる部分で、どの様な情報をどのようなアプローチで届けるのかを新たに組み立てます。

手持ちの材料、かけられる費用、投入できる人手と言ったリソースとその最適配置、競合との差別化を意識しながら、購買やリピートが最大となるよう、自社ならではのベストな施策の組み合わせを作ることで立派な新規の営業戦略となり、これを実現していくことが営業変革となります。

近年の流れでは全ての顧客対応を営業職が行うのではなく、MAツールで取得した情報からまずは電話やウェブのチャット機能を使い社内からの顧客へのアプローチを行い、ニーズの内容や深さを図った上で「リード」と呼ばれる顧客リレーションを営業職に渡していく「インサイドセールス」の活用が目立っています。顧客の掘り起こしやニーズの高まっていない顧客への時間、移動の時間などを節約して営業職の時間を効率的に使うこと目的です。

この様な施策の導入、戦略の構築には、前項でご説明した顧客行動への正確な理解と、これまでのやり方や慣習への固定概念にとらわれない柔軟な思考、全体への俯瞰が欠かせません。整理された無駄のない検討を行うのにも、前項の最後でご紹介したカスタマージャーニーマップが役立ちます。

また次項でご紹介するDXツールの個々で違った機能の適用によって、より最適な施策が見いだされることもあるので、時間軸としては施策の検討とDXツールの選定・検討は同時並行に進めるのが良いでしょう。もちろん、最終的な導入決定は戦略が確定したうえでのこととなります。

図:カスタマージャーニーマップからの施策・戦略構築の例
ジャーニーマップ3

2-3. ポイント3:ツールを活用した体制を構築する

顧客の「現在の」購買行動を確認し、自社の営業施策と営業戦略を組み立てたら、それに相応しいツールを選定・導入していきます。ツールの導入によって業務フローが変わるのはもちろんですが、場合によってはその機能を活用するために、施策そのもの、施策の強弱、或いは組合せとしての営業戦略も調整や再構築が必要になる場合もあります。

最近のツールは当初から業務のDXを念頭に置いて設計されていたり、対応するように改良されていますので、これまでは各部門や個別の端末、ソフトウェアなどに置かれていた顧客データを統合し、顧客とのコミュニケーションの際に活用したり、新たな施策検討に向けて分析・活用できるように注意しながら導入することで、営業変革におけるDXが実現することになります。

 図:営業改革におけるDXの為のツール適用イメージ
DXツール
※全てのツールを入れる必要はありません。自社の戦略と実行体制に合わせて選定します。

3. まとめ

途中でご紹介した「中小企業不要論」では、今後(2060年までという長いスパンでですが)現在約360万社ある中小企業が160万社~200万社とほぼ半減するのも「自然の流れ」と書かれています。

全ての中小企業が今の形のまま「生き残る」必要はなく、時代時代の役割を終えて廃業したり、統廃合によりより規模の大きい、そして願わくはより生産性の高い企業に生まれ変わっていくなど、それぞれの状況に応じた選択肢があると思います。

しかし、経産省の言う「2025年の崖」を乗り越え、何らかの理由で現在に近い形で生き残りたい企業や、或いは統廃合の際に優位なポジションを取りたい企業は、収益の要である営業を中心に、デジタルトランスフォーメーション(DX)を意識した改革の実行が必要な時期にあるのではないでしょうか。

 コロナウィルスによる新型肺炎の景気への影響が懸念される2020年ですが、一方で営業領域におけるDXの先進事例も確立され、ツールなどの費用も下がってきています。この機に是非、3つのポイントを抑えながら営業改革としてのデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んで見てください。

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